『そして安倍晋三は終わった』を書くにあたり、引用・参考にした文献・資料を紹介するコーナーのvol.13です。

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アベノミクスは戦後最大の消費停滞をもたらしたが、その原因のひとつが消費税の増税である。

その消費税は、大企業との力関係で弱い立場にある下請け業者や中小企業に増税分の自腹を切ることを余儀なくさせ、輸出企業に対しては自身が納めてもいない消費税分が還付されるという不公平な税制である。

 

多くの大企業が属する「財閥」は、戦後「政商」が解体したもので、政商とは、明治前半期に政府の手厚い保護・育成を受け、政府との相互依存関係の中で拡大した特権的商人のことである。

三井・岩崎・住友・安田・大倉・浅野・渋沢などがそれで、政府の事業を独占的に受注し、とりわけ官業払下げを受けて産業資本家に転じ、同系列資本を集中し、その多くが財閥に発展した。

政商が発展した財閥は戦後、GHQにより解体されたが、その代わりに「特殊法人」ができた。

政府・地方公共団体等がその資金の全部または大半を出資し、特別の監督を行う特殊法人は、国民から吸い上げられたお金が特別会計を通過することで「逆マネーロンダリング」され、湯水のように流れ込んで天下り役人の懐を潤す装置として機能している。

 

特別会計が湯水のように流れ込む特殊法人のシステムは、もとは岸信介が満州で始めたものであるという。

満州国は、満州事変の翌年の1932年、中国から引き離して清朝最後の皇帝を立て中国東北部につくられた。

実権は日本がにぎり、財閥を進出させて産業を支配し、やがて土地と住宅を強制的に買い上げて日本人を移住させる「満州開拓」を行い、1945年に撤退するまで満州国ではほとんどの事業が民間ではなく政府(公社)が直接行っていた。

満州事変は、関東軍が奉天郊外の柳条湖で満鉄を爆破してこれを「中国軍のしわざとして」軍事行動を起こした、いわば当たり屋のような行為だった。

満州事変を起こした張本人は石原莞爾という関東軍参謀の軍人で、彼は日本を「世界最終戦争」に勝利できる最強の帝国に育て上げようとした。

「八紘一宇」という、「世界を一つにする」ために日本が海外侵略を正当化するスローガンを用い、「世界最終戦争」を戦うために「全支那を利用する」、つまり国力を爆発的に高めるための満州領有が必要だったために「満州を領有する」ことを考えついた。

満州事変および満州国の建国は、石原莞爾の妄想と、その考えに共鳴した、具体的暴力ツールをもつ軍人とともに引き起こされた妄想による暴走で、結果、立ち往生し、右往左往し、泥沼化した。

そのかつての日本が犯した妄想と暴走について、安冨歩は『満州暴走 隠された構造』でこう書いている。

 

 例は極端ですが、世にいる「仮面夫婦」と呼ばれる人たちを想像してください。この二人の場合も、結婚生活がギクシャクしてきならば、本来、選択肢は二つしかないのです。
  ・相互に理解しあうまで、とことん話し合い、ぶつかり合って、本当の夫婦になる
  ・離婚する
 しかし彼らはその先に新しい展開のあるこの二つの道のどちらをも選びません。ただ現状を動かさない仮面夫婦を続けます。「現実的に」考えて、「この道しかない」とかなんとか言いながら。
 そしてこんなときにこの二人、夫も妻もよく使うマジック・ワードこそが、
「私にも立場がある」
です。
 立場はカッコつきの「現実主義」を生み出し、問題の解決を先送りし、それはとどのつまりは暴走であり、結果としてより過酷な悲劇を生むのです。
 仮面夫婦によってひどい目にあうのは、家庭の最も弱いメンバー、子どもです。国の政策としてこれをやると、アジア太平洋戦争がそうであったように、社会の最も弱い人々にしわ寄せが行きます。世界大恐慌によって生糸バブルが崩壊した信州の農家が、開拓民として満州へ駆り出された例などはその典型でしょう。
 非現実的な「現実主義者」=立場主義者がヴィジョンのない手を打つたびに、右に左に大きな揺れがきて、つつましく生活している庶民がその波に呑み込まれてしまう……。
 そしてそれは、七〇年後の今もまったくおなじなのです。福島原発事故がその最たる例でしょう。開拓団のケースとそっくりです。甘い言葉と札束で許した国策つまり原発が、爆発してもう故郷に帰れない。中には飯館村の住民のように、原発からなんの恩恵も受けていないのに被害だけを甘んじて受けねばならない人々もいます。
 これも、事故が起きれば大変なことになることはわかりきっているのですから、

 ・原発など諦める
 ・事故が起きたときには納得のいく補償などがなされるよう前もって決めておく

 この二択でしかあり得ませんでした。しかし「現実主義者」たちはどちらもを「非現実的」として、「事故は起きないはず」というファンタジーに逃げ込みました。「立場上」原発を諦める ことなどできないし、事故は起きないという「立場上」、補償や避難の計画は想定外というわけです。
 結果はご存知のとおりです。もちろんこの場合も、東京電力の経営陣も、この国策を推進し続けてきた多くの政治家も、官僚たちも、だれ一人として責任は取っていません。彼らは「粛々」と仕事をして、「粛々」と給料や退職金や年金をもらっています。(p.200-202)

 

日本は資本主義の仮面をかぶっているが、実際は官僚制社会主義国家で、天下り役人の報酬1億円を作り出すために100億円規模の事業としての特殊法人をつくって税金を垂れ流している。

そしてその税金が一部の人間に流れる仕組みはいまも昔も官僚がつくっていて、その仕組みが1930年代以降連綿と続いている根本的な理由が、政治家や官僚ら支配する側の「立場」という「妄想」による「現実逃避」である。

このことに、どれほどの日本人が気づいているだろう。

そしてこの「立場」、「世界を一つにする」という妄想的な理想、その理想を理由に一方的に戦争を仕掛ける考え方こそが、迷惑きわまる中華思想であり、満州事変から始まるいくつもの戦争は、旧日本軍が天皇を中心とした中華帝国を築こうとしたために引き起こされた中華思想による弊害であるといえる。

 

そして日本人、とりわけ官僚や大企業の経営陣、政治家など、日本を支配する「立場」にいる人たちは、いまだに満州国に生きている。

いまだに満州国に生きている日本を支配する立場にある人たちが、満州事変やそこから始まった第2次世界大戦を、反省するどころか「成功体験」だと思っているなら、憲法改正を叫ぶ彼らの暴走は、その次に一体何を引き起こすだろうか。

 

■引用・参考文献・資料

石井紘基『日本が自滅する日「官制経済体制」が国民のお金を食い尽くす!』PHP研究所、2015年(初版は2002年)

安冨歩『満州暴走 隠された構造』角川新書、2015年

「複雑化したシステムの中心に東大がある」石井紘基氏が調べていた特別会計の闇の源流 ~安冨歩教授の授業 2013.11.27