ESSAY
おかしい人

おかしい人

  世界はおかしくなっている。 いまに始まったことではないが、いま思うと、このおかしさはずいぶん前から始まっていた。   たとえば町の人。 もう10年以上前のことだ。繁華街の、人ひとりやっと通れる細い歩道を、他人A、わたし、他人Bの順で並んで自転車をこぐことになった。 他人ABはカップルで、わたしと面識はもちろんない。 うっかりカップルに割り込んでしまったのだ。 気づいたときに […]
壊れるとき

壊れるとき

    二階用の掃除機を買ったら、一階の掃除機が動かなくなった。 こういうことは、しょっちゅうではないがときどき起こる。 以前働いていた店では、おもての製氷機が壊れたら、裏の製氷機が壊れた。 おもてと裏というのは、建前と本音という意味ではなく、客席と厨房のこと。   あのときは製氷機だった。 製氷機は夏場には集中してつかった。 扉の開け閉めも頻繁になった。 開けたらま […]
とんだ勘違い

とんだ勘違い

  子どもの頃に憧れて、あるいは熱中してみたことで、でも続けられなくてやめたことがある。 そのとき、はとても熱中してそれをしたものだ。 けれど、ゆえあって続けなくなったことだ。 ゆえといってもかんたんで、大人になるにつれてしなければならなくなった勉強や仕事に、つかえる時間のほとんどすべてを占領されたからだ。   そのときは、でも自分でも納得してやめたことだ。 そうして、べつなこ […]
箱を開ける

箱を開ける

    ある日、玄関先に見慣れぬ箱があった。 非常食の小さな段ボール箱で、マジックで日付らしきものが書かれてあった。一見して我が家からでてきたものではないのがわかった。 夫とふたりで見つけ、お互いに憶えがなかったので、母がごみの日にだそうとして置いているものだと結論付けた。 捨てるものを入れるのにちょうどいい大きさの箱がたまたま非常食のそれで、スーパーかどこかでもらってきてそう […]
ぜいたくな夢

ぜいたくな夢

  暑いので、メロンがおいしい。 何度も噛みくだかなくとも、上あごと舌で押しつぶすとすぐさま果汁になってからだに沁みわたるるような果物は、いかにも果物を食べている気になってぜいたくだ。 わたしにとってのぜいたくな果物は概して夏の果物に多く、それはきっと、雪国で生まれ育ったことと関係していると思う。   ぜいたくな気持ちになったせいか、むかし見たぜいたくな夢を思いだした。 断片的 […]